夜間日記

2022年8月1日~2023年7月31日

第70夜

真夏、青空が冴え渡る朝、アパートに帰宅した。部屋は2階の角部屋だった。玄関のドアを開けると、内装は寝台列車の個室のようだった。幅は2メートル程しかなく、広さは6帖程度の細長い部屋で、広いキャンピングカーのようでもあった。四方すべての壁が車窓になっており、私は荷物を玄関脇の棚に置いて、窓を開けてみた。爽やかな夏の風が吹き込んで来た。途端に、部屋、もとい車両が動き出した。進行方向の窓に駆け寄ると、この車両は、高架の線路をゆっくり前進していた。よほど高い位置にあるのか、周囲に建物などは一切見えず、真っ青に広い空の下、ただ線路が1本、真っ直ぐ続いているだけだった。やがて下り坂になった。前方遠く、坂を下り切った先には、交差点と、赤信号を待つ車両や人々が、蜃気楼に揺れて見えた。交差点に侵入する前に、車両を止めなければならない。加速し切る前に脱線させようと決めた。幸い地面は砂浜で、線路が埋もれるほどの白砂でふかふかだった。玄関だったドアを蹴破り、片足を地面に突き刺して、両腕でドアの枠を掴んだ。身体が引きちぎれそうになりながら、なんとか車両は止まった。私は車両から降りて、近くの駅まで歩いた。

5時間22分31秒。