夜間日記

2022年8月1日~2023年7月31日

第238夜

車の後部座席で目覚めた。なにやら騒がしい気配がしたので、窓から外を覗いてみると、私は駐車場に置かれた乗用車の中にいて、ここは近所の住宅街のようであった。住人たちが喚きながら走り回り、あちこちで警官が交通整理をしており、混沌とした様子だった。突然、道の向こうから馬が全速力で走って来て、住宅の塀に体当たりした。家の周りから悲鳴が上がった。馬はふらつき、身震いをして、そして私が乗っている車を捉えた、瞬間、こちらに向かって突進しだしたので、私は慌てて車から転がり出た。馬は車に突っ込んで、気絶した。

「トイレに行きたい」と大声で騒ぐ女性が走って来た。ここは住宅街のど真ん中だから、トイレがあるような施設はない。見かねた警官が「仕方ないから、その辺の草むらでしてきて」と宥めると、女性は泣き出してしまった。私は気の毒になって、「私の家は2丁目だからここから近い。トイレを貸してあげます」と呼びかけた。女性を車の助手席に乗せ、私は運転席に座った。私は「自分は無免許だし、運転したことがない」と伝えると、女性は「それでもいい」と言うので、私は思い切りアクセルを踏み込んだ。

住宅街の毛細血管のような細い道を走り回っていると、だだっ広い公園に出た。公園にはトイレもあったが、女性が頑なに「家のトイレがいい」と言うので、公園のトイレの中を車で走り抜け、家を目指した。私は、家とは全然違う場所に来てしまっていると気付いていた。出発した駐車場から家までは、歩いてほんの5分の距離であるはずだったが、ここまで既に30分近く車を走らせている。あたりはすっかり夜だった。

やがて、鍾乳洞のような大きな洞窟が見えた。入ると、下は乳白色の川のようになっていて、ここからは車を降りて、歩くことにした。川には所々に岩の小島があり、小島の真上の天井からは、宝石やネックレスなどの装飾品がジャラジャラ垂れ下がっていた。私たちは小島を飛び移り、落ちそうな時には装飾品を掴みながら、何とか奥へ進んだ。

洞窟の突き当たりの壁には、真四角に窪んだ小部屋があった。飛び移って入ると、部屋の四方の壁に宗教画が掛けられており、展示室のようだった。壁にはさらに奥へと続く穴があり、くぐり抜けると、外に出た。夜のサービスエリアのように開けた場所で、大勢の人が行き交っていた。警備隊のような、和服姿の2人組の男たちが歩いて来た。私は駆け寄って、「住宅街の2丁目に行きたい。ここからどのくらいだ」と尋ねた。男たちは苦笑いして、「ここから10日以上はかかるぞ」と言い捨てた。私たちは絶望した。「トイレはありますか」と尋ねると、サービスエリアのトイレのような、巨大な建物を紹介された。女性はトイレに向かって駆け出した。もはや何処のトイレだろうが関係ない様子であった。

7時間28分15秒。