夜間日記

2022年8月1日~2023年7月31日

遠くで人が話している声が聴こえる。浮上する意識に押し上げられるように瞼を持ち上げると、早朝の鈍い光に浮かび上がった、灰色の天井が見えた。パジャマの背中部分が、じんわり濡れている感触がある。また寝汗をかいたのかも知れない。寝返りを打って、反対側へ寝転ぶと、ベッドの上に放られたスマホの画面が光っているのが見えた。恐らくは数時間以上、YouTubeが再生され続けている。聴き取れない音量だが、誰かと誰かが対談している。寝る直前まで観ていたホラー映画の恐怖を紛らわすために、自分で点けて、そのまま寝落ちしたようである。腕を伸ばし、スマホを掴み上げると、手の爪が全て紫色に染まっていて、ギョッとした。昨晩つけた紫色のマニキュアだった。ベッドに入った時にはまだ湿っぽかった爪の表面は、今はすっかり固まっている。両手の爪を合わせると「カチ」と軽い音が鳴った。指先から微かにシンナーが香る。時刻は午前6時半。遠くの空高くで、飛行機の低いエンジン音が響いている。

2483時間10分19秒。