夜間日記

2022年8月1日~2023年7月31日

第287夜

音楽の授業が終わり、クラスメイト全員で音楽室から教室まで戻って来た。今日はこの後、1階のロビーでクリスマス式典が行われるので、教科書を置いたら、また直ぐに教室を出て、クラス全員で1階まで駆け降りて行った。

ロビーは3階まで吹き抜けの広い空間で、床一面が大理石で覆われており、白く輝いていた。ロビーでは、式典に参加する保護者たちが大勢集まって、シャンパンを片手に談笑している。保護者の女性たちは皆、パーティー用のドレスで着飾っており、男性はタキシードを着ていて、全員、どこかしらの有名企業や学校法人の役員らしかった。クラスメイトたちは、相当なお金持ちの家の子らしい。ロビーの中央に並べられたパイプ椅子に、クラスメイトたちが次々と着席していく中、私は、先ほどの音楽の授業で使ったエレキギターを持って来てしまっていることに気が付いた。クラスメイトたちは、誰1人としてギターなど持っておらず、代わりに1人1つずつ、手のひらサイズのスノードームを持っている。私はクラスメイトの1人に、「皆んなどこにギターを置いてきたの?私、持って来ちゃったんだけど」と尋ねると、彼女は眉をひそめて、「自分のロッカーに入れてきたよ。それより、スノードーム持ってないの?これが無いと式典に参加出来ないよ」と言う。彼女が見せてくれたスノードームは見るからに高級そうで、私には到底買えそうにない。彼女は続けて、「どうせ買えないでしょ。貸してあげよっか?」と提案してくれたが、周囲の保護者たちが私を指差し「スノードームを持たない貧乏人が混ざっている」と囁いているのが聴こえてきて、私は気分が悪くなった。私は「ありがとう、でも大丈夫。そういう高そうな物はちゃんと大切にしな」と言って、クラスメイトたちから離れた。

ロビー中央に据え置かれた教壇に、タキシード姿の先生がやって来た。いよいよ式典が始まる。私は教壇の目の前まで行って、先生に「ギターを置いてきても良いでしょうか」と申告すると、先生は物凄い剣幕で「音楽室から盗んできたのか。これだから貧乏人は」と叫んだ。私はなるべく落ち着いて、「このまま置きに行けなければ、本当に盗んでしまうことになります」と説明した。先生は鼻で笑って、ロビー出入り口の観音扉を指差した。扉はちょうど、式典スタッフであるメイドたちによって施錠されたところだった。私は1人、ギターを握ったまま壁際に立たされた。先生は私を無視して開会の挨拶を述べ、先生、保護者、クラスメイトたちが交流する立食パーティーが始まった。クラスメイトの何人かが、立たされている私を嘲笑いに来た。

9時間13分24秒。